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下関港大繁盛理論

下関市港湾局長 宮本卓次郎

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はじめに
  本年になって下関港の国際コンテナ貨物の増大が顕在化しており、貨物量が既存施設の能力を超えるに至って、やむを得ず再開発用地を臨時のコンテナヤードにしなければならなくなった。就航30周年を迎える関釜フェリーは、本年度に入り、貨物、旅客とも空前の利用となることが確実視されており、貨物の積み残しを出す状況である。確かに昨年から本年にかけて、韓国景気が低迷期を脱したことも大きいが、それだけでは説明出来ないほど下関港の現状は活況を呈している。下関港の上期輸出額が対前年比で1.7倍となっているとの下関税関署の速報が、それを客観的に裏付けている。
  昨年7月に市の港湾局長となり、さっそく秋に18号台風の被害に見舞われたときにはツキが無いと思ったものの、今や下関港の盛況に、ひょっとして運の良い男かな・・と思いながら至福の時を過ごさせていただいている。
  通常の港湾の現況報告などからすれば型破りな気もするし、儲け話は人に教えないのが世の常である。しかし、下関港の活況の背景を見ると、今日の国際物流において求められる港湾サービスのあり方、或いは港湾間の役割分担について筆者自身考えさせられる所があり、敢えて「大繁盛理論」と大仰な題を付けて本文を執筆することとした。その辺りを行間に感じ取っていただければ幸いである。
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1  下関港小判鮫理論
  下関港は、北九州港とともに「関門港」として開港され、特定重要港湾に指定され、更に横浜港、神戸港などと同じく6大港のメンバーにもしていただいている。それなりの港湾ではあるが、6大港の中ではやはり施設規模、取扱貨物量などで最も小さいのが下関港である。そんなことから、6大港の関係者が一堂に会した折り、つい「6大港の中の小判鮫・・下関港です・・」と挨拶してしまった。大港湾の局長さん方に敬意を表したつもりであったが、部下職員からは至って評判が悪かった。しかし、小さいのは当たり前、それを自覚し、大港湾とは違う取り組みをすることが必要なのである。そのことを徹底するため、「小判鮫」は今でもよく使っている。また、小判鮫理論には一つ良いことがある。料金設定など、下関港だけ説明に苦労しないのである。何しろ「北九州港さんに合わせた・・」と言えば済み、実際、そのようにするのが港湾の経営上も妥当な場合が多いからである。
  なお、北部九州中枢港湾3港のシンポジウムで、「博多港は玄関・・北九州港は勝手口・・猫の通る勝手口の横の壁の穴が下関港・・」と某講師の方から評された時は、大笑いしつつも、さすがに面食らった。
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2  ダブル・クロス理論
  下関港は、二つの十字路交通の交差点に位置する港湾である。交通量の多い十字路の角地の商業的価値が高いように、十字路交通の要衝性がダブルでかかっていることが下関港の優位に極めて大きな意味を持っている。
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2−1  第一の十字路 “海峡クロス”
  下関港は本州最西端にあって関門海峡を挟んで北九州港に面している。この海峡地形が下関港を交通の要衝ならしめている最も大きな要素である。かつての下関は、本州と九州の渡し船と、海峡を往来する北前船で賑わった。海峡が織りなす十字路交通の妙である。これが今や、本州〜九州間の鉄道、道路といった陸上交通がトンネルや橋梁で結ばれるようになり、渡し舟の要衝性は損なわれたが、下関港はより大きな優位を得ることになった。つまり、海峡に面することにより本州〜九州を結ぶ陸上幹線交通網が全て下関に収斂することから、労せずして本州主要都市への優れた陸上交通アクセスを下関港が得ることとなったのである。これもまた海峡が織りなす十字路交通の妙である。
  このことを一般の方々にご説明するとき「道路でも鉄道でも山陽線と山陰線が共にあるのは全国で下関市だけ・・」と言うことにしている。面白いことに、それを聞いて一番に驚かれるのが地元下関の方々である。下関育ちの方々には当たり前過ぎて、それが下関だけということに感心されるらしい。
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2−2  第二の十字路 “グローバル・クロス”
  今、国際コンテナ物流の大動脈はアジア、北米、ヨーロッパの三極貿易の様相を呈しており、その一つであるアジア〜北米の最短航路が日本海津軽海峡ルートである。例えば香港〜北米シアトルでは、日本海ルートの方が太平洋ルートよりも2日程度短縮できるという。大型コンテナ船の用船費、燃費等を考えれば、この2日の差はいかにも大きい。地球が丸いということなのだが、このことも一般の方々にはなかなか不思議なことらしい。そんなときは「ヨーロッパから帰ってくるときは北回りが近いのと同じ・・」と言って、何となく納得して貰うことにしている。自分でも確認したくなり、地球儀にゴムひもを当てて見たが、見事にゴムひもは北部九州(下関も)の上を通り、津軽海峡を抜けていく。我が国に4地域しか選ばなかった中枢港湾として北部九州を選んだ運輸省港湾局の慧眼に改めて感心させられる。
  このアジア〜北米ルートを横軸にしたとき、縦軸となるのが下関の朝鮮半島との近接性である。何しろ下関港〜韓国釜山港の距離は下関〜広島の距離よりも短いのである。これにより、下関港は隣国韓国への本州の玄関口として重要な役割を担ってきた。そして、経済がグローバル化し日韓の経済関係がより緊密さを増しつつある今日、韓国釜山港との近接性が下関港の優位により大きな意味を持つようになってきた。
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3  国際フェリー手荷物理論
  下関港にも日本一を自慢できるモノがある。それは我が国唯一のデイリー・サービスを行っている国際フェリー定期航路の関釜フェリーである。そして、デイリー・サービスの国際フェリーが就航しているからこそ、下関港は我が国でいち早く365日の即日通関が可能な港湾となっている。つまり、即時通関が当たり前の国際旅客が毎日入る下関港ではCIQの体制が充実しており、その充実したCIQの体制がコンテナ貨物の即日通関も可能としている。
  下関港の利便性の源泉とも言える関釜フェリーの就航は、下関港の韓国釜山港に近接しているという地理的優位性に由来するが、その関釜フェリーが何しろ強いのである。ただし、その強さの理由は国内フェリーのRORO特性とは少し違うような気がしている。国内フェリーの場合には、シャーシ、トラックなど自ら移動する能力を有する貨物を運ぶということに由来する利便性がある。しかし、国際フェリーの場合には商業車両の乗り入れ規制もあり、更に通関等による港湾での滞留がある。そのことだけ見ても、国際フェリーと国内フェリーが違うことが明らかである。それでは何が強いのか・・ということになるが、それはコンテナ貨物との対比で、フェリーが旅客も運ぶことによる就航率及び定時性の高さ、船体の振動の少なさ、安全への配慮等であり、また、シャトル便であることによるスピードと確実性の高さということであろうと考えられる。つまり、時間に遅れれば声高に文句を言う旅客を乗せている以上、船社にとっての定時性確保の重要性はコンテナ船に比べて極めて高くなるのは当然であり、シャトル便だから遠回りすることもなく、貨物のおろし忘れもあり得ないといった具合である。国際フェリーの強さは、夕方に船積みを確認すれば、旅客とともに翌朝には安全かつ確実に相手港に到着するであろうという荷主の信頼感なのである。そのことを説明する時、「国際コンテナが空港で預ける荷物なら、国際フェリーは機内持ち込みの手荷物のように安心・・手荷物なら紛失の心配もなく、また、見えないところで乱暴に扱われる心配もない故・・」と言うと、大抵の方にご理解いただける。
  今春、関釜フェリーの新造船「はまゆう」と同型船が2年後には釜関フェリーに投入されることが決まった。これにより、関釜フェリー航路全体の貨物輸送能力は2〜3割増強され、旅客のみならず、貨物にとっても下関〜釜山間のさらに安全、快適な船旅が提供される予定である。
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4  下関港仲良し倶楽部理論
  下関港のコンテナ施設は、未だに岸壁1バースにコンテナ・クレーン1基である。その施設で毎日、休み無く定期航路を受け入れているのであるから、常態を逸していると言っても過言ではない。何しろ、クレーンの具合が悪い時には、電話一本で即時に修理をしてもらわないと港湾のサービスを維持できないからである。さすがに在任中、一度であるがクレーンの補修が間に合わず他港荷役をしてもらったことがあるが、一年に一度だけのトラブルは台風の来襲による欠航率を下回る。まさしく下関港は、我が国港湾荷役機械メーカーの高い技術力と地元のメンテナンス会社の奉仕精神を実証している。
  いずれにせよ、1バース、1クレーンの我が港において、利用者たる船社、港運に施設を仲良く使ってもらうしかない。それは、たとえ港湾運送事業法が認可から届け出に変わったとしても、元来1バースしか無い施設では法的規制よりも物理的制約が優先するということに他ならない。その結果、下関港のコンテナターミナルは、関係会社が出資する株式会社にその運営を委託するという形を採っている。このような下関方式とも呼べる形態は、物流効率化のために推奨されている共業化や今注目のPFI方式を先取りしているような気がする。
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5  コーリアン・ゲート理論
  下関港〜韓国釜山港の間には、デイリー・サービスの関釜フェリーに加え、週6便のコンテナ・サービスがある。これらフェリー航路とコンテナ航路よりなる多重高密度の韓国釜山港への海運サービスと下関港のスピーディかつ内容の充実したCIQ体制、更に十字路理論で述べたように道路、鉄道ともに充実した本州アクセスが組み合わさって、本州と韓国とを結ぶ最も多様、確実かつスピーディな物流サービスを提供できる港湾となっている。下関港にさえ運べば、コンテナ船或いはフェリーで確実に貨物が届けられる。また、韓国からの輸入も、釜山港まで持ってくれば確実に翌朝には下関に届き、夕刻までに通関を終え、その日の夜には大阪に、また、二日目のお昼には東京まで確実に貨物を届けることが出来るのである。下関港と韓国釜山港の間の物流サービスは、荷主にとって、映画にある「スター・ゲート」のようなものと考えることが出来る。「コーリアン・ゲート」とは下関港が我が国にあって韓国のゲート・ポートという意味なのである。この点、大都市港湾のゲート・ポートとは少しニュアンスが違うことにご留意いただきたい。
  そして、このようなサービスの特性を最大限活用し、また更に先鋭化させることが今後の下関港の基本港湾戦略となっている。
  このため、下関港では日本海側に新たな国際コンテナ物流拠点とすべく沖合人工島(ひびっく・らんど)の建設を運輸省第四港湾建設局のお力添えを頂きながら進めている。この沖合人工島は、地理的優位性や優れたアクセス、スピーディなCIQサービスといった下関港の優位性を継承しつつ、強制水先制度も含めた関門航路の航行にかかる制約やヤード不足といった現状の諸課題を解決するものであり、沖合人工島の供用により下関港のサービス水準が更に高められるものと期待される。
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6  下関スペシャル理論
  下関〜釜山ルートの更なる競争力増強方策として、コンテナ船或いはRORO船のシャトル・サービスも検討に値する。
  現在の下関港のコンテナ船サービスは、釜山港からの我が国港湾を巡回する航路の第一寄港と最終寄港の組み合わせとなっている。よって、釜山港からと直行便と釜山港への直行便が概ね交互に寄港することになる。これでも十分に便利で、デイリー・サービスのフェリー航路とコストとスピードで補完的なサービスを提供でている。しかし、もし仮にコンテナ船或いはRORO船を釜山港と下関港の間にシャトル便として設定することが出来れば、より低コストなサービスを実現する可能性がある。何故なら、現在の関釜フェリーは旅客を乗せるため、定時出港の夜間航行で、入出国管理の時間的制約もあり、2隻配船によるデイリーサービスを実施しているが、貨物だけ運ぶコンテナ船或いはRORO船では、夜間航行にこだわることなく、また入出国管理に関わる時間的制約も無いからである。その結果、下関港と釜山港間の航行時間8時間として、それぞれ4時間の荷役時間を取っても、一隻の船でデイリー・シャトル・サービスを実現することが出来る。これも下関港の韓国釜山港への近接性があるからこその話なのである。このようなアイデアについて、コンテナ船社のトップと面談した折り「小型コンテナ船を下関スペシャルにされたら如何・・」とお話申し上げたところ「良いアイデアを貰った」と喜んでお帰りになった。これがビジネスとして実現可能なアイデアなのか、それとも単なる社長さんのリップ・サービスだったのか・・その答えを筆者は密かな楽しみとして待っている。
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7  下関港スピード優位理論
7−1  今、ビジネスに求められる物流スピード
  近年、物流スピードがビジネスにとって極めて重要な要素となってきている。最も分かりやすいのは、時間の経過とともに商品価値を失う鮮魚や生鮮野菜などの生ものビジネスである。生ものビジネスは輸送時間を短くしなければビジネスそのものが成立しない。輸送時間を短縮すればするほど、売れ残り、賞味期限切れという損失を減少させることが出来る。更に、物流のスピードが販売実績に応じた商品供給を可能とし、それが更に損失のリスクを小さくする。同じようなことは、最低でも年に4度の商品転換を行わなければならないアパレル産業にも言える。季節が過ぎ、流行遅れになったら誰にも買ってもらえない衣類も、また一種の生ものなのである。そして、アパレル産業は、生産と物流のスピードを高めることにより在庫を減らし、商品転換コストを減らすことに多大な努力を払っている。どのようなものが生ものビジネスなのかは、誰でも簡単に判別できる。「バーゲン・セール」や「売り尽くし」といったものを行うことが生ものビジネスの一面の特徴であり、宿命であるからだ。
  物流のスピードは、生ものビジネス以外のビジネスでも、物流在庫の減少や資金回転率の向上といった財務的効果を持っている。100円で買ったものを110円で売ることを100回繰り返すことを、1万円で買ったものを1万1千円で売ることを一回行うことと比較すれば、利益は同じでも必要とする資金もリスクも百分の一で済むのである。このことは、商品の販売ばかりでなく製造における部品調達にも当てはまる。流行言葉のSCM、DCM、POS、Eビジネス、全てにおいて物流スピードが重要な要素となっていることは間違いのないところである。
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7−2  物流スピード優位の下関港
  下関港は、本州と韓国釜山を結ぶ最も確実かつスピードのある物流サービスを提供できる港湾である。現在の下関港の主要な輸入貨物が韓国からの生鮮野菜やアパレル製品であり、それらが大阪や東京の市場に運ばれている事実が、前項で述べてきたこと実証している。逆に、東京、大阪をマーケットとする商品、貨物のうちスピードを要しない場合には、韓国から直接に大阪湾や東京湾まで船で運んだ方が物流コストが低廉に済む分だけ有利なはずである。よって、そういった貨物についての下関港の優位は大幅に後退する。下関市は人口26万人、山口県でも人口150万人でしかない。直背後圏のコスト重視の貨物よりも、東京、大阪など本州大都市圏へのスピード貨物に特化することにより、初めて港湾の優位を発揮させることが出来る。そして、本州大都市圏をマーケットとする限りにおいて、下関港と同じく韓国釜山港に近接する博多港、北九州港などに対しても下関港は優位を維持できる。何故なら、韓国釜山との間の国際海上輸送の利便性が同等であれば、本州に位置する下関港の方が国内陸上輸送において時間的、コスト的に優利であるからである。関門海峡を渡る道路トンネル、道路橋はともに有料であり、道路トンネルに至ってはハイ・キューブを乗せたシャーシが通行できない。本州と九州の間には依然として海峡が存在しているのである。
  なお、スピード重視の貨物の特徴は、総じて重量当たりの単価が高いことであり、これが貿易額の倍増につながっている。
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8  続下関港小判鮫理論
  港湾は、概して商業港的なものと工業港的なものが混在したり、或いは、多数の航路ネットワークの中で多様な貨物を取り扱うなど、多様性を信条とし、多方面の整備、活性化方策を展開する。それに対して下関港の場合には、幸か不幸か、ある意味で極めてシンプルな港湾と言える。即ち、韓国とを結ぶスピードある物流サービスに港湾としての優位を見出し、それを先鋭化することが港勢の拡大に直結するからである。そのことを、ある時には「コーリアン・ゲート・ポート」と称してみたり、またある時には「質の特重港湾下関」と称しているが、やはり「釜山港の小判鮫」と称するのが分かりやすい。
  ただし、小判鮫も大きい魚に張り付いて、ただ楽をしているだけではない。韓国に立地する数多くの本邦企業は、関釜フェリーの国際物流サービスに依存しており、下関港と関釜航路があるからこそ韓国へ進出したという。このような相互依存の関係を両港、両国の港湾関係者が正しく認識し、協力関係を深化させることが、今後の更なる国際物流の利便性向上と両港、両地域の発展の鍵となる。そして、大港湾である釜山港へ敬意を表しつつ親密な協力関係を構築するという意味を込めた「小判鮫」なのである。
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あとがき
  下関港は特徴ある港湾であり、それ以上に極めて恵まれた港湾である。下関港は、その地理的条件の上に、充実した航路サービス、優れたCIQ体制と陸上交通アクセスの全てが揃っている。そして、そのような港湾の特性を十分に理解することによって、優位を維持することも出来るし、また、ポート・セールスなども重点的かつ効果的に行うことが出来る。ところが、自分が持っているものが「当たり前・・」と思ってしまうのも人の常である。そうならないように、部下職員は勿論のこと市民の方々に広く自らの港湾の特性を良く理解してもらうことも、また、全国を転々とする中で縁があって今ある我が身の勤めと思っている。
  下関市に蛍で有名な長府の壇具川がある。蛍は清浄な水環境の代名詞であり、確かに下関の水は美味しい。そこで、神戸港さんの二番煎じを承知で、本年のポート・セールス用パンフレットにさっそく「美味しい水」を追加させることにした。

  ホッ、ホッ、ホタル来い、こっちの水は甘いぞ・・蛍はポート・セールスの代名詞でもある。
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